人間ドックというのは、かつては「短期入院精密身体検査」という、少々いかめしい言葉で呼ばれていた時代がありました。もともとこの制度がはじまったのは、昭和29年という比較的早い時期であり、戦後の混乱から立ち直ったわが国で、国民の健康を増進するためにはどうすればよいのかということを真剣に考えていた東京都下の一部の病院の医師たちが連携して進めたものです。その当時は血液検査や尿検査、レントゲン撮影などを組み合わせて提供していましたが、1週間程度はその病院に入院をしながら必要な検査を行うというスタイルであり、現在ほど手軽なものではなかったようです。人間ドックということば自体は、戦前からあったようで、病気により権力を失うことをおそれた国会議員らが、病院での入院による精密検査を、人間ドックと表現したというのがそのはしりとされています。
戦後に「短期入院精密身体検査」が広まるようになると、新聞記者らがこのことばをふたたび用いはじめたため、以後はこのことばが定着しました。もっとも、多額の費用がかかるため、金銭的に裕福な人しか人間ドックにかかれないという揶揄と、犬のブルドッグをもじったことばで表されたりもしていたようです。現在では、医療の進歩とともに人間ドックのあり方もかなりの進歩を遂げており、入院せずに1日だけでも必要な検査を行い、しかも費用は数万円からという、庶民にとっても手がとどく範囲のものとなっています。